脳動脈瘤が発見されたら… 治療するべきか?
★手術数でわかるいい病院 2024年、名医のいる病院2024年に それぞれ動脈瘤の治療に対する考え方について、私の解説、監修記事が載っていますので、これもご参照ください
まず脳神経外科医による正確なインフォームドコンセントを
脳動脈瘤は脳ドックや、頭痛、めまいなどの原因を調べるためにMRI、MRAを受けることによって、破裂していない状態(未破裂)で発見されます。※MRIとは、磁気を利用した断層撮影で、殆どの病気の診断ができるすぐれた検査です。しかし、脳動脈瘤の存在はMRIでは、通常わかりません。脳動脈瘤は、血管だけをみるMRAという検査で, 2mm 以上の大多数の動脈瘤は発見されます。さらに、造影剤を使用した3D CTAという検査をすれば動脈瘤の詳細な形状がわかります。
頻度は2-6%との報告がありますが、東京ミッドタウンクリニック 脳ドックのデータを昭和大学脳神経外科のグループが解析し、4.3% に動脈瘤が発見されました。約半数は破裂の危険がほとんどない3mm未満でした。ただ半数は破裂の可能性がある3mm以上ですので、3mm以上に成長するものが約半数ということになり、半年から1年毎の定期フォローアップが必要です。詳細は世界的な権威のある学術誌(Journal of Neurosurgery)に論文として掲載されています。
脳動脈瘤が発見されてしまった場合、3mm未満のものでは破裂の心配はありませんが、3mm以上ものは破裂の可能性があり、破裂すれば、半数以上の方が寝たきりや死亡するくも膜下出血という重大な病気になります。このため、日々、旅行に行って大丈夫か?トイレに行くのが怖い、いつもドキドキして暮らしているという方が多くおられます。経過観察でよいのか、治療したほうがよいのか、治療する場合はどんな治療をするかについて脳動脈瘤を専門としている脳神経外科医から正確な説明(インフォームドコンセント)を受けることが重要です。脳動脈瘤は、大きさ、形、分枝血管の位置など千差万別でバリエーションが多い疾患だからです。
脳動脈瘤を治療するかどうかは「自然歴」と「治療の安全性」の両てんびん
昭和大学脳神経外科 主任教授 水谷は、約2000例を超える脳動脈瘤の豊富な手術経験を持ち、メディアでもたびたび紹介されてきました。また、2012年より14年連続でBest Doctorsの認定をうけています。脳動脈瘤の治療の考え方や治療方法について解説させていただきます。
脳ドックなどで脳動脈瘤が見つかった場合、治療をするかどうかの判断には「自然歴」が重要です。「自然歴」とは、「破裂の危険性はどのくらいあるのか」「増大や変形する可能性はどのくらいあるのか」という確率を指します。さらに、自然歴を予測したら次に考慮しなければならないのは治療の安全性とリスクです。脳動脈瘤が見つかっても、すべての方にとって治療することがベストな選択とは限りません。その脳動脈瘤は安全に治療できるか、治療の際に合併症が起きる確率はどれくらいか、個々に予測する必要があります。動脈瘤は大きさ、部位、形状は一つとして同じものはないため、治療難易度の高いものが多く含まれており、それだけ治療の安全性も個々に異なりますし、治療を受けられる方の年齢、脳の状態、全身状態の要素も重要です。また術者の技量は安全性を左右する大きな要素です。
治療をするかどうかの判断は、この「自然歴」と「治療の安全性」を両てんびんにかけて常に比較しながら検討していきます。
自然歴(破裂率) 動脈瘤の大きさ、部位と破裂率、リスク因子、生涯破裂率
無症候性未破裂動脈瘤の破裂率は、7000人規模で実施した日本人の調査(UCAS Japan)が2012年に報告され、全体平均 0.95%/年でした。場所による差があり、動脈瘤が大きいほど、不正な形状ほど破裂しやすく、ブレブ(動脈瘤からさらに小さいコブが出ている形状)があると 1.63倍と報告されています。喫煙習慣、高血圧、過度の飲酒(1週間で150g以上のアルコール摂取)家族歴、多発性などが破裂リスクを高める要因として、あげられています。60才の女性で、平均的な動脈瘤が発見された時に、余命は約30年ありますから、生涯破裂率は 約1%x30=約30%程度と計算します。これを高いととるか低いととるかは、個人の考え方にもよります
脳動脈瘤の治療
「血管内治療(カテーテル治療」と「開頭手術」
もし「治療を行う」と決まった場合、次に検討されるのは「どんな治療がよいか」です。脳動脈瘤の治療には手術によって頭を開けて外側から脳動脈瘤を治療する「開頭手術」と、頭を開けずに血管内で治療を行う「血管内治療」の2つがあります。
ここで理解する必要があるのは、「どちらの治療のほうが絶対によい」という基準で考えることはできないことです。なぜなら、どちらの治療にも優れた点とそうでない点が存在するからです。
血管内治療 血管の中からカテーテルという細いチューブを動脈瘤の根元まで入れて、そこからコイルという金属(プラチナ性、MRI 可能) を送り込んで内部を埋めます。コイルとステントを組み合わせることもあります。障害を残さず、安全に治療できる可能性は、 開頭手術と同じ程度です。この治療法の利点は、入院期間が短くてすむこと(通常、未破裂動脈瘤で 3-4日)手術創が残らず、痛みもなくてすむこと、剃髪しなくてよいこと、高齢者でも可能なことなどがあげられます。マイナス面は、動脈瘤の根元に隙間が残るため約10%の動脈瘤が再発し、再治療を必要とすること、動脈瘤の形状(間口が広いものや、分枝血管が動脈瘤よりから出ているものなど)によってはコイルによる治療が困難であること、カテーテル操作中に動脈瘤が破裂するケースが 約1%に見られ、この場合には止血困難で重篤になることが多いことなどがあげられます。最近は、フローダイバーターステントという目の非常に細かい ステントが使用できるようになり、根治を目指すことが可能になりました。さらに動脈瘤内にはめ込むことができるウェブが登場し、昭和大学脳神経外科でも積極的にフローダイバーターステントやウェブを使用した最新の治療を行っています。
開頭手術
顕微鏡を使用し、脳動脈瘤の根元をクリップ(チタン製、MRI可能)で挟んで動脈瘤内への血流を遮断する治療です。ほぼどんな形の動脈瘤でも治療可能で、根元を完全に遮断できるので動脈瘤が根治する可能性が高いことが最大の特徴です。術後に血液サラサラの薬を使用することもありません。入院期間は 10-14日。術後 2-3日で歩行や食事が可能となります。創部は髪の毛のある範囲におさめるので、丸坊主にすることはなく、皮膚に露出することはありません。マイナス面は脳を直接触るため、カテーテル治療にくらべて侵襲性が高く、高齢者向きではないことや、てんかんを生じた場合(頻度は数%)、は 1-2年間、車の運転が制限されることなどです。私は安全にクリップをかける方法としてクリップを微妙に動かして動脈瘤をとらえ、裏にある穿通枝という重要な血管を損傷しないブレーディングテクニックを提唱、実践し、無血で安全な手術を心掛けています。
各治療の特徴
脳動脈瘤は、形、場所、大きさによってバリエーションが多い疾患です。ですから「どちらの治療法が絶対的によいか」という考え方はできないものの、「どちらの治療が適しているのか」を導き出すことは可能です。上記に加え、個々の方の自然歴や条件は異なりますので「自分に」適した方法を医師とよく相談することが重要です。
どんな脳動脈瘤の場合にどのような治療が適しているか
脳動脈瘤は形状や大きさ、治療難易度もさまざまで、個々に応じたきめ細かい治療が必要です。現在本邦では血管内治療が開頭治療よりやや多くなってきています。
まず頭を開かない血管内治療を検討することはもちろん大切であり、特に高齢の方や、脳梗塞や心臓などの血栓症予防薬を服用している方は特に血管内治療が優先されます。また、脳底動脈先端部の動脈瘤は頭の奥の深い所にでき、意識の中枢を栄養とする重要な穿通枝という非常に細い動脈が近くにあるので、手術のリスクも高い場所です。これに対して血管内治療は比較的安全である場合が多く、再発よりも「治療そのものが安全に行えるかどうか」を優先しなければならないため、血管内治療のほうが適している場合が多いです。しかし一方、動脈瘤自身から枝のように血管が出ている場合、中にコイルを詰めてしまうと枝になった血管も閉塞してしまうことになるため、血管内治療は適しておらず、脳の表面に近い位置にできた動脈瘤は逆に血管内治療では遠い位置になるため、特に中大脳動脈瘤は開頭してクリッピング術をするほうが適しているといえます。