頚動脈狭窄の手術

頚部頚動脈硬化による脳梗塞

脳梗塞のタイプは様々なものがありますが、頚部頚動脈狭窄によるものは、他のタイプと違い、脳梗塞を繰り返して起こす可能性が高いと言えます。それは摘出された動脈硬化プラークの写真のように内部がぐずぐずした状態になり、破裂して飛び出した中身が脳の血管に流れこんで、これを詰まらせることを繰り返すからです。マグマ(動脈硬化/プラーク)が溜まった火山が繰り返し噴火するようなイメージです。

頚部頚動脈狭窄に対するするスクリーニングと治療の概略を解説いたします。

頚部頚動脈硬化の治療 -内膜剥離術(CEA) とステント(CAS)-

頚部頚動脈狭窄の治療は、狭窄率の少ないものに関しては禁煙や生活習慣の改善が第一ですが、狭窄率がある程度以上になると一定の割合で脳梗塞を生じるため治療適応となります。適応基準を満たす場合に2つの治療法があります。

一つは、頚部頚動脈狭窄に対して、頚動脈を切開して動脈硬化を取り除く内膜剥離術 (CEA)であり、1960年代ごろからアメリカを中心として広まりました。1990年代には大規模比較試験(NASCET,ACAS)が行われ、脳梗塞の予防に多大な効果があることが再確認され、日本でも手術件数が増加しつつあります。2012年4月より私が教授として着任した昭和大学脳神経外科と前任地である東京都立多摩総合医療センター脳神経外科では、私が中心となって手術とその技術啓蒙を行いました。主導したCEAが、2023年には1000件を超え、ほぼ99%レベルの安定した成績を出しています。

<CEA と CAS >

もう一つの方法は血管内からカテーテルを用いて狭窄部にステントという金属のメッシュ状の器具を挿入した上で拡張して粒子する方法(CAS)です。動脈硬化を壁に圧しつけて流れ出さないようにするイメージです。
CEAは”頚動脈の中のカスを取り除いてきれいにする”手術であり、CASは ” カスはそのままで、異物(ステント)を入れて押さえ込む ” 治療ということになります。CASの場合は、切らずに済む治療ですが、ステントを入れるためにバルーンでカスの部分を広げるので、カスが潰れて飛び散ることをバルーンでせき止めたりフィルターなどで回収します。ただそれらをすり抜けて脳に流れてそのために脳梗塞(小さな無症状のものも含め)を生じる頻度が50% (Lancet Neurol 2010;9:33-362)とされている報告もあり、高頻度であることが問題点ですが、昭和大学脳神経外科では約10%程度に抑えられています。
現在 CEA, CASともに国内で認められた治療であり、昭和大学 脳神経外科では両方を得意としています。

血管超音波検査(頚動脈エコー)

皮膚の上からあてるだけで、頚動脈の状態がわかる、一番手軽で有用な検査です。
カラードップラー装置の付いたものがあれば、動脈硬化性のプラークは流血と簡単に区別がつきます。狭窄度が高い場合は、ドップラーで計測される血流速度が上昇しており、最大血流速度(PSV)が200cm/秒を超えている場合、70%以上の狭窄がある可能性が高くなります。B modeでプラークの性状を確認できます。エコーは外来で、簡便に行うことができ、スクリーニングとしては最適です。

頚動脈エコー

頚動脈エコー(カラーの部位は血流、矢印は動脈硬化性のソフトプラークを示す)

検査と画像

・頸動脈内剥離術(CEA)術前と術後

頸動脈内剥離術(CEA)術前と術後

 ・摘出した各種動脈硬化性プラーク

摘出した各種動脈硬化性プラーク

・MRI、MRA

頚部血管MRA(これは造影剤を使う方が鮮明な画像が得られる)
MRAはMRIと同時にできる血管だけをみる検査のことです。狭窄の存在が一目瞭然です。
またプラークの性状が(やわらかくて脳梗塞を起こしやすい不安定なものか、比較的硬くて安定しているものか)MRIで、ある程度診断がつくようになっています。

MRI、MRA

(矢印は、頚動脈高度狭窄、不安定プラークを示す)

頚部動脈MRI、 MRA、プラーク性状診断

頚部動脈MRI, MRA、プラーク性状診断

・CTA

CTA

造影剤を点滴し、画像をコンピューターで立体構築します。プラークの位置と形状が一目瞭然です。

上記が無侵襲なスクリーニングの手段ですが、手術を施行する場合は、より詳細に評価できるカテーテルによる血管撮影が必須な場合があります。

動脈硬化による頚部頚動脈狭窄はどのような人に発見されるか

動脈硬化の危険因子として、糖尿病、高血圧、喫煙習慣、高脂血症があげられており、これらの危険因子を多く持つほど、発見率が高くなります。過去に脳梗塞や一過性脳虚血発作 (TIA )生じたり、突然片目が真っ黒になって見えなくなる一過性黒内障といわれる発作を生じた方で、頚動脈エコーやMRA等により発見される頚部頚動脈狭窄は、症候性の頚部頚動脈狭窄であり、将来大きな脳梗塞を生じる危険がもっとも高いグループです。
過去に “軽い脳梗塞”といわれ、頚動脈エコーやMRAで責任血管を調べる検査を受けておられない方々に、エコーで検査してみると、高度の頚部頚動脈狭窄が見つかる例が度々あります。また、脳梗塞の既往はなくても、狭心症、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症(ASO)を生じた方は頚部頚動脈狭窄とほぼ同じ動脈硬化の危険因子を持っています。これらの方に頚動脈エコーの検査で発見される頚部頚動脈狭窄は、無症候性頚部頚動脈狭窄といいます。
以上のような方々には是非、頚動脈エコーの検査を受けられることをお勧めします。

文献上のデータ

1:虚血性心疾患と頚部頚動脈狭窄には有意な相関関係があり、狭心症、心筋梗塞患者における、エコー上で認められる 50% 以上の頚部頚動脈狭窄の頻度は、12.3 – 27.7% と報告された。 (Sanguigni V, Angiology 1993; 44:34-48, Barnes RW, Surgery 1981; 90:1075-1083 )
また、虚血性心疾患患者における冠状動脈の罹患枝の数 (CAS )と、頚部頚動脈の狭窄率は相関を認めると報告された。すなわち、罹患枝の数が多いほど、頚部頚動脈の狭窄はより高度のものが多くなる。 (Uehara T, Stroke 1996;27:393-397)

2:頚動脈狭窄と種々の危険因子との相関を検討すると,糖尿病患者,CAS高得点患者に特に高い有意差を認めた。  ( Uehara T, Stroke 1996;27:393-397 )
< 頚部頚動脈狭窄の自然歴と手術適応について >
1990年代に北米で行われた大規模臨床比較試験 (NASCET, ACAS )の結果に基づいて国際手術基準 - Guidelines for Carotid Endarterectomy, 1995 (American Heart Association)が設定されました。これらの臨床試験で症候性頚部頚動脈狭窄では、狭窄率70%以上のうち32.3%が2年以内に死亡ないし脳梗塞に至り、狭窄率50-69%のうち22.2%が、5年以内に死亡ないし脳梗塞に至ったという結果をもとに、手術合併症が6%未満の施設において症候性頚部頚動脈狭窄では、50% 以上の狭窄率を有する場合に手術の有効性が認められました。また無症候性頚部頚動脈狭窄では、狭窄率60%以上の11.0%が5年以内に脳梗塞に至り、手術合併症が3%未満の施設において、無症候性頚部頚動脈狭窄では60%以上の狭窄率を有する場合にの手術の有効性が認められました。これらの臨床試験では狭窄率の測定方法が血管撮影に基づいていましたが、最近のエコーの普及につれてエコーによる狭窄率測定による 3000人を超える参加人数の臨床試験 (Lancet 2004, ACST )においても60%以上の狭窄率を有する無症候性頚部頚動脈狭窄に対しての手術の有効性が認められました。

手術適応は、狭窄率に加え、動脈硬化内部の潰瘍の有無、病変部の位置、手術のやりやすい頚部の形かどうかなどを考慮して決めますが、昭和大学 脳神経外科では詳細な説明を行った上で、CEA(手術)とCAS(ステント)の適応を考え、最終的に治療を施行するかどうかを患者さんと相談して決定します。また頚動脈狭窄のある方は、同じ動脈硬化である狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患を併せもつ場合が多いので、循環器内科による
心臓評価を先に行うことがほとんどです。

脳梗塞を予防するには、かかりつけの先生方による患者さんに対する生活指導、高血圧、糖尿病等の管理が一番重要であることはいうまでもありませんが、エコー装置をお持ちの先生方には、是非、頚動脈エコーを施行していただき、また、動脈硬化の危険因子をもつハイリスクの方には積極的に頚動脈エコーを受けていただくようお勧めします。