脳動脈瘤について

脳動脈瘤が発見されたら… 治療するべきか?

まず脳神経外科医による正確なインフォームドコンセントを

脳動脈瘤は脳ドックや、頭痛、めまいなどの原因を調べるためにMRI、MRAを受けることによって、未破裂の状態で発見されます。※MRIとは、磁気を利用した断層撮影で、殆どの病気の診断ができるすぐれた検査です。しかし、脳動脈瘤の存在はMRIでは、通常わかりません。脳動脈瘤は、血管だけをみるMRAという検査で発見されます。
成人人口の 4-5人/100人が、脳動脈瘤を持っていると言われており、MRAで2mm 以上の大きさの大多数の動脈瘤は発見されますが、多くは3mm未満の小さなものです。また、造影剤を使用した3D CTAという検査をすれば動脈瘤の詳細な形状がわかります。

脳動脈瘤が発見されてしまった場合、3mm未満のものでは破裂の心配はありませんが、3mm以上ものは破裂の可能性があり、破裂すれば、半数以上の方が寝たきりや死亡するくも膜下出血という重大な病気になります。このため、日々、旅行に行って大丈夫か?トイレに行くのが怖い、いつもドキドキして暮らしているという方が多くおられます。経過観察でよいのか、治療したほうがよいのか、治療する場合はどんな治療をするかについて脳動脈瘤を専門としている脳神経外科医から正確な説明(インフォームドコンセント)を受けることが重要です。脳動脈瘤は、大きさ、形、分枝血管の位置など千差万別でバリエーションが多い疾患だからです。

脳動脈瘤を治療するかどうかは「自然歴」と「治療の安全性」の両てんびん

脳ドックなどで脳動脈瘤が見つかった場合、治療をするかどうかの判断には「自然歴」が重要です。「自然歴」とは、「破裂の危険性はどのくらいあるのか」「増大や変形する可能性はどのくらいあるのか」という確率を指します。さらに、自然歴を予測したら次に考慮しなければならないのは治療の安全性とリスクです。脳動脈瘤が見つかっても、すべての方にとって治療することがベストな選択とは限りません。その脳動脈瘤は安全に治療できるか、治療の際に合併症が起きる確率はどれくらいか、個々に予測する必要があります。動脈瘤は大きさ、部位、形状のバリエーションが広く、それだけ治療の安全性も個々に異なりますし、治療を受けられる方の年齢、脳の状態、全身状態の要素も重要です。また術者の技量は安全性を左右する大きな要素です。
治療をするかどうかの判断は、この「自然歴」と「治療の安全性」を両てんびんにかけて常に比較しながら検討していきます。

自然歴(破裂率)

動脈瘤の大きさ、部位と破裂率の関係

無症候性未破裂動脈瘤の破裂率は、7000人規模で実施した日本人の調査(UCAS Japan)が2012年に報告され、全体平均 0.95%/年という結果が出ています。動脈瘤が大きいほど、破裂しやすく、大きさと破裂率の関係は以下になります。

  • 3-4mmの動脈瘤 → 年間破裂率 0.14 – 0.90%
  • 5-6mmの動脈瘤 → 年間破裂率 0.31 – 1.37%
  • 7-9mm の動脈瘤 → 年間破裂率 0.97 – 3.19%
  • 10-24mm の動脈瘤 → 年間破裂率 1.07 – 6.94%
  • 25mm 以上の動脈瘤 → 年間破裂率 10.61 – 126.97%

不正形であるほど破裂しやすく、ブレブ(動脈瘤からさらに小さいコブが出ている形状)があると 1.63倍と報告されています。

破裂のリスクを高めるもの

喫煙習慣、高血圧、過度の飲酒(1週間で150g以上のアルコール摂取)家族歴、多発性などが破裂リスクを高める要因として、あげられています。

生涯破裂率は、年間破裂率に余命見込み年数をかけ合わせて、さらに大きさ、場所、その他の条件を勘案して算定します。例えば60才の女性で、平均的な動脈瘤が発見された時に、余命は約30年ありますから、生涯破裂率は 約1%x30=約30%程度と計算します。これを高いととるか低いととるかは、個人の考え方にもよります。

脳動脈瘤の治療

「開頭手術」と「血管内治療」治療方法の比較

もし「治療を行う」と決まった場合、次に検討されるのは「どんな治療がよいか」です。脳動脈瘤の治療には手術によって頭を開けて外側から脳動脈瘤を治療する「開頭手術」と、頭を開けずに血管内で治療を行う「血管内治療」の2つがあります。
ここで理解する必要があるのは、「どちらの治療のほうが絶対によい」という基準で考えることはできないことです。なぜなら、どちらの治療にも優れた点とそうでない点が存在するからです。

開頭手術
(脳動脈瘤治療の約5割を占める)
直接病変に触れるため、浸襲性(周辺の脳組織へ影響を及ぼす可能性)があるといえます。頭を切って手術するので入院期間も長くなります。ただし、再発が少なく「根治」という面では大変優れた治療です。どんな形の動脈瘤にも対応でき、術中に万が一出血が起きた場合でもリカバーしやすいという特徴があります。
血管内治療
(脳動脈瘤治療の約5割を占める)
頭を切らなくてよいため、低強襲(病変以外の他の脳組織への影響の心配がない)であることが利点です。ただし、10%程度の再発(脳動脈瘤に詰めたコイルの隙間から血流が入り込み再び動脈瘤が発生する)と、動脈瘤の形によっては治療ができないというマイナス面があります。また、万が一手術中に出血が起こった場合、リカバーしにくいという特徴があります。間口が広い動脈瘤はステントを使用します。最近はフローダイバーターステントという目の細かいステントが施設、術者限定で使用されるようになってきています。このステントは大型動脈瘤にも根治性が目指せます。ただステント使用の場合は血栓予防のため、抗血小板剤が2剤使用されます

各治療の特徴

脳動脈瘤は、形、場所、大きさによってバリエーションが多い疾患です。ですから「どちらの治療法が絶対的によいか」という考え方はできないものの、「どちらの治療が適しているのか」を導き出すことは可能です。上記に加え、個々の方の自然歴や条件は異なりますので「自分に」適した方法を医師とよく相談することが重要です。

どんな脳動脈瘤の場合にどのような治療が適しているか

たとえば脳底動脈先端部の動脈瘤は頭の奥の深い所にでき、意識の中枢を栄養とする重要な穿通枝という非常に細い動脈が近くにあるので、手術のリスクも高い場所です。これに対して血管内治療は比較的安全である場合が多く、再発よりも「治療そのものが安全に行えるかどうか」を優先しなければならないため、血管内治療のほうが適している場合が多いです。一方、動脈瘤自身から枝のように血管が出ている場合、中にコイルを詰めてしまうと枝になった血管も閉塞してしまうことになるため、血管内治療は適しておらず、脳の表面に近い位置にできた動脈瘤は逆に血管内治療では遠い位置になるため、特に中大脳動脈瘤は開頭してクリッピング術をするほうが適しているといえます。
昭和大学病院脳神経外科の場合、治療の検討をする際には開頭手術と血管内治療のそれぞれのエキスパートクラスの専門医が一緒にカンファレンスを行います。一人一人のの脳動脈瘤に対医師の評価と患者さんの年齢やバックグラウンド、お考えを合わせて治療専門医が平等に比較検討し、患者さんにベストの方法を提案できることは、非常に利点になると思います。

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